フランクフルト空港の思い出

ふと思い出した話。

10年以上前、フランクフルト空港のカフェで搭乗までの時間を潰していた。隣に座ってたのは欧州人と思しき青年。何がどうなったのか、この青年が荷物をまとめたあと、開いたままのラップトップを残してふらっと消えてしまった。制限エリア内だからって無防備すぎだろと呆れつつ、戻ってくるまで見張ってやるかと片目で忘れ物を睨みながら過ごすこと約10分。そろそろゲートに移動しようとなっても状況は変わらない。それならばと会計時に店員さんに事情を説明したのだが、何を言ってるんだという顔でまともに受け止めてもらえない。いや信じらんないだろうし私も人から聞かされたら信じられないだろうけど本当なんだよいいから見てみろよ――と、テーブルの上に鎮座するラップトップを指差した。「えっ、あれお前のじゃないの?」「んなわけないでしょ。私に何の得があるんですか。もう行かなきゃ。あとはよろしく」

あれなんだったんだろうな。青年も、店員も。

autechre japan twentytwentysix, Yogibo META VALLEY (Osaka), 5 Feb. 2026

大きく期待していた何かが実際には期待をさらに上回るという素敵なことが、人生にはたまに起こる。大阪でのオウテカのライブはまさにそういう出来事だった。

最初の数分以外はほぼずっとビートあり。それに加えて断片化されたいろんな音が鳴っていて、音の洪水という決まり文句を使いたくもなる。しかしノイズというよりも、こちらの処理能力を超えたすさまじい量の情報があくまでも整然と流れ込み続けるという言い方をしたほうが、印象に近い。どうなってんだあれ。これがオウテカそのものという感じのメタリックな変則ビートと絡むと、会場が完全に暗転していることもあって、時間感覚がなくなってくる。前半はそんな感じ。キックの乱れ打ちでわけがわからなくなって、なんだこれはと笑いながら聴いていた。後半はビートが既存のダンスミュージックのイディオムにかなり寄ってきて、たぶんアシッドハウス(あるいは初期のトランスマットあたり)を参照というか再解釈しているんだろうなという四つ打ちになったり、たぶん2小節かそこらだけど、エレクトロ丸出しになってた瞬間もあった。あれはKraftwerk - Numbersのビートの引用といっていいはず。だとすると、それは当然ながらAfrica Bambaata - Planet Rockにおけるクラフトワークの引用の引用だということにもなる。このあたりの展開は二人のキャリアを考えればまったく不思議ではないんだけど、それでも意表を突かれた。そして、四つ打ちアシッドハウス風のパートで裏拍を刻むハイハット風の金属音を乗せてきたことにはかなり驚かされた。そういうのはやらないもんだと勝手に思いこんでいたので。しかし、こうやってある種分かりやすいことをやっているときのほうが彼らの異様さはかえって際立つようにも思える。あんなアシッドハウス聴いたことないよ。

というわけで、意外とキャッチーだったという感想さえありうるライヴだった。でも、これをキャッチーなものの範囲に押し込めたのは、20世紀末から今に至るまでの音楽に対するテクノの貢献であり、オウテカはそのなかで重要な役割を果たした人たちの代表格といっていいはずだ。

会場は激込みだった。とはいえ、私は後ろの壁際に立てたので比較的快適に過ごせた。もちろんそれでも近くにはたくさん人がいた。しかし、完全に暗転してあの音に包まれていると、周りに誰かがいるのかどうか、よくわからなくなってくる。単に周りに誰もいないのとも違う、ものすごく不思議な体験だった。基本的には目をつぶって聴き、たまに目を開くと前の方にモニタに照らされた二人の姿がぼんやり見えて、あまりこの世の出来事とは思えない感じ。楽しかった、興奮したという感覚は残っているんだが、それ以外はあまり記憶にない。その意味では夢に近い。なので上に書いたことについて、「そんなに覚えてるもんなの? 記憶違いじゃない?」と誰かに言われたら、そんな気もしてきそう。

とにかくまあすごいものを聴かせてもらいましたよ。

デーツ&きなこ

ピンとくるものがあって買ってみたら予想以上に美味かった。検索して、複数メーカーが同じような商品を出していることを知った。つまりいくらか定番の組み合わせということか。私が買ったのはこれ。また買いそうな気がする。

https://www.yodobashi.com/product/100000001008529035/

2023年の6枚

5枚にしようと思ったのだけど絞りきれず6枚に。一番よく聴いたのはYouraで、一番感銘を受けたのはSurgeon、ここまではさくっと決まるんだけど、残りに悩んだ感じ。今年は収穫が低調という印象があり実際のところ例年と比べるとあんまりヴァイナル買わなかったんだけど、たぶんこれは私がそういう気分だったということだと思う。

Erlon Chaves - Sabadabada

四半世紀以上前に2000円くらいで中古で買ったやつ。私のはたぶんオリジナル版ではなくこちらの非公式リイシュー版だろう(https://www.discogs.com/ja/release/5359106-Erlon-Chaves-Sabadabada)。というのも、ジャケットの風車の色が下のサムネイルのものよりもリンク先の画像のとだいたい同じだから。どこで見つけたのかは思い出せない。でも、そのレコード屋にいたときからなんか身体がふわふたした感じになっていて、帰宅後ほどなく猛烈な風邪の症状に見舞われたことはまだ覚えている。病床でもうろうとしながらB面にくり返し針を落としていたせいか、その後10年くらいこれを聴くと落ち着かない気分になってしまっていたのだった。いまはもう平気。いいアルバムですね。